八日、九日頃に里帰りしようと考えていた。
「もう少しだけ、供養の日が近づいてからにしてはどうか」
宮さまはそう仰られるが、里帰りした。
いつもより陽が照り付けている日の昼頃、宮さまから文が届いた。
「花の心は開いたか? どう? 」
「秋はまだ先の事ですが、一晩に九度も魂が昇る心地でございます」
そう返事申し上げた。
(注)中宮定子は以下の漢詩を引き合いにした
九月西風興 月冷露華凝 思君秋夜長 一夜魂九升
二月東風来 草拆花心開 思君春日遅 一日腸九廻 白氏文集 白居易
宮さまが内裏から二条宮へとお移りになられる夜のこと、用意された車に乗る順序も決まっていない。女房達が「先に、先に」と騒ぎながら乗るのが憎らしいので、いつもの三人でその様子を見ていた。
「やっぱり、車に乗り込む様子が騒がしいわね。祭りの帰りのように車が倒れてしまうくらい慌てて狼狽えているのがとても見苦しいわ。急がなくても大丈夫よ。乗る車がなくなってしまって参上できなければ中宮様のお耳に入り、車を寄こしてくださるわ」
笑いながら見ている私たちの前を通って、押し合いながらすべての女房達が乗り込んでいった。
「全員乗りましたか? 」というので、
「まだ、ここに」と答えた。
宮司が近くに寄ってきた。
「少納言さまでいらっしゃいますか? とてもおかしな事ですね。全員が乗ったと思っていたのですが、どうして乗り遅れたのですか? これから得選(御厨子所の女官)を乗せようとしてたところです。こんなことは未だ例がありません」
宮司は驚いて車を寄せてきた。
「では、まずお考え通りに得選を、私たちは次にでも」
「それは普通の事ではありません。意地が悪いにもほどがあります」
と、言われたのでおとなしく車に乗った。後に続いたのは御厨子の車。灯りがとても暗いことを笑いながら二条宮に着いた。
宮さまの御輿はとうに二条宮に入られていた。部屋の設えは既に終わっていて宮さまはお座りになられていた。
「少納言が着いたら、まずここに」
と、仰られていて西京少弐、右近など、若き人々が参上するたびに探すのだが少納言はいなかった。女房達が下りてくるに順って4人ずつ御前に参上するようになっていた。
「少納言はどうしていないのか? 」と宮さまが仰られていたことにも私は気付かず、すべての人が降りきってやっと探し当てられた。
「これほど探しているというのに、どうしてこのように遅くなったのですか? 」
引き連れられて参上した。お座りになられている宮さまを見て、「いつのまに、こうも長年住み慣れたところのように寛いでいらっしゃるのか」と、つい可笑しくなった。
「どうして、う探すまで顔を出さなかったのか? 」
私が何も申し上げないので、一緒に乗ってきた女房が口を開いた。
「どうしようもなかったのです。最後尾の車に乗ったものがどうして疾く参上できますでしょうか? それでも、危うく乗れなかったところを御厨子が可哀そうだと感じたのでしょう、車を譲ってくれたのです。車が暗くて困りましたけれど」と笑いながら啓上した。
「差配する者の不手際ですね。ただ要領がわからない者は遠慮もするでしょう。右衛門などが言ってやらないと」
「ですが、どうして我が先にと走ることが出来ましょう」
右衛門が言うのを、他の女房達は憎しと聞いているだろう。
「みっともなくそのように乗るのは良いことではありません。定められたように優雅に振舞うのが良いでしょう」
宮さまは不愉快な様子だったので、他の女房達の事を庇い、
「私たちが余りに遅いので、待ちきれなかったのだと思います」と申し上げた。