キュルキュルヒュルヒュル~
何だ? この音は。
朝6:05、いつものように会社へ行こうとして車庫から車を出した。シャッターを下ろそうと運転席から外に出た時、異音が聞こえてきた。そういえば連れ合いが「何か変な音がするよ」と何度か言っていたことがあるが、僕にとっては初めて聞いた音だった。慌ててスマホを操作し異音が止まってしまう前に録音を開始した。正確に言えば録画だが、目的は異音を録ることだ。朝が早いのでディーラーはまだやってない。仕事もあるので、退社後にディーラーに寄ることにした。
18:00前にディーラーに着いた。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか? 」
「ちょっと異音が…この音なんですけどね」
録音の音を聞いてもらった。
「ちょっと見てみますね~ 鍵はお車についていらっしゃいますか? 」
整備士が早速見てくれるようだ。15分ほど待つと整備士が僕のところに戻ってきて言った。
「間違いなく、どこかのギアですね。ちょっとしたことかもしれませんし、大事なのかもしれません。欠けていたりとか、すり減ってたりとか、何らかの不具合が出ている可能性があります。どうしますか? もし修理するならエンジンをおろさないといけないので安く見積もっても30万円くらいかかってしまうと思います」
「このままでも問題はないですかね? 大概は異音はしていないので」
「ん~ 、それは何とも言えません。急に動かなくなることも考えられます。修理するか? 騙し騙しいけるところまでいくか? 」
とにかくお金をかけて見てみない事にはちゃんとしたことは言えないようだ。まぁ、そりゃそうだろう。無責任なことを言える筈がない。とりあえず、いけるところまでいってみようか? ただ、来年の4月になれば大阪万博の車での旅が始まる。旅の終わりまで保てば良いのだが…一抹の不安は拭えなかった。
あくる日。
「軽トラキャンピングカーでも買おうか? 」
思い切って言ってみたが、連れ合いの反応は良くない。
「うちにそんなお金はない! 大体にして置く場所がない。お前、会社にキャンピングカーで行くのか? 」
バッサリと切って捨てられてしまった。作戦間違えたなと思いつつ、次の機会を待った。
正月休みが終わって数日たった頃。
「フィールダーなら手ごろな中古車たくさんあるよ。200万以内で買える」
連れ合いが提案してきた。なるほど、買い替えるつもりはあるようだ。予算は200万くらいか? それならば…と、僕も中古車探しを始めてみた。確かにフィールダーは手頃だ。今乗っている車はホンダのシャトル。週末農業者なので、収穫した野菜などを積むスペースが欲しくて購入した車だ。シャトルと同じステーションワゴンタイプなので、荷物も多く積めそうだし、価格も安いし中々良さそうだ。ステーションワゴンタイプはこの頃人気がなく、次々と生産停止になっているので、車種を選べないのだ。
その後しばらくたって、他に良い車はないかなぁ? とネットで探していると、ある車が目に止まった。スズキのフロンクスだ。360°モニターがついていたり装備も高級車並みで、4WDならお手頃な本体価格2,827,000なのだ。
次の週末の2月23日の日曜日、早速近くの5号線沿いのスズキに行って見積もりをしてもらった。オプションは何もつけないで何やかやで310万円。「エンジンはシエラと同じでCVTではないので、ドライブを楽しむにはとても良い車です。ただし、納期ですが、半年はかかるんですよ。ただ、3月になれば決算期間なので、もう少しお得になる良い時期です」
「大阪万博には間に合わないな」
そう心に思いながら今度は、その足でまたまた近くのスズキの代理店へ行った。フロンクスが置いてある。内装を見せてもらった。高級感がある。ふとまわりに目を遣ると、スイフトの試乗車落ちが260万円で売られていた。ここでもフロンクスと、中古車スイフトの見積もりをしてもらった。
「フロンクスはCVTではないので、もっさりした感じです。CVTの方が断然良いです。それとシャトルですけど、時間がたてばたつほど、下取り価格は下がっていきます。3月になれば決算期間なので契約は3月になってからがお勧めです! 」
5号線のスズキとは言っていることがずいぶん違うなぁ、人の感覚によるものなのかなぁと思いつつ、見積もりを待っていた。見積もってもらっている最中に、スイフトの中古車情報をネットで探してみた。なんと、百合が原のスズキでは、走行距離24kmの新古車がここよりも安い価格で出品されているではないか。スイフトも、何やかやで300万円はかかる。連れ合いは、スイフトに相当乗り気だったが、「スイフト良いね」という連れ合いの言葉に敢えて反応せずに、営業マンには言葉を濁しながら店を後にした。
今度はそのまま車を走らせ、百合が原のスズキに向かった。車を駐車場に止め、社外に出ると、明るい女性が颯爽と声をかけてきた。
「何かお探しですか? 」
「ここに、スイフトの新古車があるとネットで見たので。あと、フロンクスもちょっと気になっていて」
「あぁ、ありますよ! 」
「これですが… 」
30秒ほど説明を聞いてから気付いた。
「これ、スイフトじゃないですよね? あれっ? これ、フロンクスですか? どうしてここにあるんですか? 」
「あっ、これはですね。船便で来るときに窓ガラスにひびが入ってしまって、取り替えてくれというオーナーさんの要望で、行き先がなくなっちゃったんですよね。それで新古車としてうちに来たんですよ」
「でも310万円なら、新車と変わらないね」
「ところがですね、こちらの車、ほぼフル装備なんですよ。前のオーナーさんが拘っていたようで、ほぼついてます。それと、色も白黒のツートンで… 」
「買います! 」
説明を遮り、連れ合いの気持ちも確認せずに、思わず勢いで口走ってしまった。
そこにあるのだから、万博には間に合うだろう。恐る恐る連れ合いを見ると、思いっきりの笑顔で応えてくれた。
「それじゃぁ、詳しい説明をしますね。中へどうぞ」
その日のうちに契約を済ませたフロンクス。シャトルでの車中泊を想定していた連れ合いは、この時点から、フロンクス対応に追われる日々となった。出発まであと43日。