連れ合いの作る「16日間の旅行ガイド」は、着々と完成していく。
中古本を買い集め、調べ、書き込み、推敲する。
1月31日、異音。
2月、ブドウ膜炎の後遺症による白内障の手術。
視力は回復したが、近くが見えない。レンズを入れたのだから仕方がないらしい。
大阪万博の海外旅行用のパスポートにそっくりな造りで、赤い下地に公式キャラクターのミャクミャクが描かれている。しっかりしたつくり、透明なビニールケース付きで雨の時でも安心だ。ストラップもついていて首から掛けられるタイプだ。ストラップの紐の部分にもミャクミャクが描かれている徹底ぶりだ。パスポートの中のページには、訪問したパビリオンのスタンプが押せるようになっている。なるほど、心をくすぐる仕掛けなんだろう。大阪万博の前評判はすこぶる悪いが、それだって半世紀に一度あるかないかのイベントだ。今回を逃せば生きている間に万博に行ける機会などあろうはずがない。目一杯楽しんでやるぞと心に決めた。
出発前夜。
荷物を積み、早めに床につく。
ピンポン、ピンポーン。
深夜零時。
次男だった。鍵もスマホも持たず、締め出されたらしい。
ひと騒動のあと、再び眠る。
私は眠れる。連れ合いは、そうはいかなかった。
翌朝、いつものように早く目が覚めた。若い時なら昼過ぎまで寝ていたところだ。連れ合いも起きてきた。
「眠れなかった… 」
今宵はフェリーの中、2時間程しか寝る時間がない。可哀そうだが仕方がない。
そしていつも通りに朝食をとり、顔を洗ったり、歯を磨いたり、日常のルーチンワークを淡々とこなした後、持ち物の整理をした。連れ合いの方は準備万端だが、僕はいつもぎりぎりで、直前に用意をする。まずはお金関連、これは最も大切だ。何を忘れたってお金さえあれば大概は何とかなる。次に薬、こちらは市販薬ならなんとかなるが、潰瘍性大腸炎、中性脂肪と尿酸値を下げる薬、ぶどう膜炎の治療用点眼液。これらは、忘れた場合、替えが効かないので必ず持つ必要がある、念のため20日分。あとは下着類。
「下着は持ってくれた? 」
「パンツとシャツ、靴下は適当に入れといた。どうしてもはきたいパンツがあるなら持っていけば! 」
どうしても履きたいパンツなどあるはずもなく、
「上着とズボンとかは? 」
「半袖のカラーTシャツと、雨の時でも大丈夫なポンチョとズボンは持った。」
なるほど、ほぼ大丈夫だな。
「あとは、気に入ったアロハシャツとか持っていけば? 」
そういうので、アロハシャツを4枚とジーパン2つを持った。
「サンダルとか持っていったら? 雨の時は、ポンチョとサンダルの方が楽じゃない? 」
ということで、サンダルも持った。ここまで来たらもう一安心。いつものようにミルで豆を挽き、コーヒーを入れる。今日はモカマタリだ。
「何時に出る? 」
「昼前に出れば? 」
「だけど、あんまり早くついても時間余すんじゃない? …でも、まぁいいか。姉夫婦のところで、夕飯食べさせてもらって、風呂もご馳走になって行くか」
旅は、もう始まっている。