/活動日誌/閑話/16Day's 16Day's 3章の② 大猷院 2026-03-21 ( 初回配信 2025-10-25 ) facebook tweet LINE はてブ Pocket 徳川家光の御廟所である大猷院。登っても登っても、また門が現れる。どこまで行けば終わるのか、その見当もつかぬまま、ただ黙々と足を運ぶ。引き返す理由もなく、立ち止まる口実もない。人は、こうして登らされる。最初に通るのは二天門。持国天と、長らく広目天と間違われていた増長天を祀り、背後には風神、雷神が控えている。守るというより、圧してくる配置だ。次が夜叉門。毘陀羅、阿跋摩羅、鍵陀羅、烏摩勒伽。耳慣れぬ名が並ぶ。烏摩勒伽の手にある金の矢が、いわゆる破魔矢だという。柱には見事な獅子の彫刻。絢爛で、息をのむ。徳川の力は、誇示されるべくここにある。そして唐門。白龍の目貫と、つがいの丹頂鶴。右の柱には昇り龍、左には降り龍。上がるものと下がるもの。その対比が、無言のまま均衡を保っている。拝殿へ渡る。権現造りの国宝本殿――別名「金閣殿」が、相の間の奥にひっそりと姿を見せる。拝殿に入ると、左右の壁には唐獅子、天井には狩野探幽による百四十余の昇り龍と降り龍。その中央には、家光の養女・清泰院が献上したという金色の天蓋が吊られている。実際に着用されたと伝わる家光の鎧もあった。豪奢で、なおかつ厳かだ。ここは、祈りというより権威の間である。簡単な説明があるというので、天蓋の真下に座り、二十数名の観光客と共に話を聞く。五分ほど経ったころ、話題は破魔矢へと移った。「皆さん、破魔矢の正式な飾り方はご存じですか? 」確かに、知らない。「破魔矢は家のどこに置いても構いませんが、できるだけ高い位置に、羽を下、矢先を上に向けてください。特別なことがある場合は、矢先を玄関の方へ向けて飾るとよいでしょう」なるほど。人生、まだまだ知らぬことが多い。だが話は、そこで終わらなかった。「毎年、新しい破魔矢を買われますよね。ですが、こちらの“龍神破魔矢”は昇り龍が彫られ、輪王寺大猷院の御神前にて永代供養された、一生ものです。買い替え不要。そして、お値段は三千円。矢立もございます」商魂たくましい。説明が終わるや否や、初老のご夫婦が三組ほど、この破魔矢を買い求める列に並んでいた。信仰と経済は、いつの時代も仲がよい。さらに先には皇嘉門。これより先へ進むことはできない。その奥に、家光公の墓所があるらしい。周囲の灯籠を眺める。ひとつとして、同じ形のものがないように見える。少なくとも、私の目には、同じ灯籠は見つけられなかった。「ずいぶん登ったね」連れ合いと話しながら、来た道を下る。下りの眺めも、なかなかに美しい。来てよかった。そう、しみじみと思う。だが、この時点では、まだ知らなかった。登りは、これでもほんの序の口だったということを。