『くしゃみは偽りの証』
ある日、宮さまから問われた。
「我をば思うや? 」
「いかにかは」
お慕い申し上げないことがありましょうかと返した時に、台盤所から声高いくしゃみが聞こえてきた。
「あな心憂、嘘だったのね」
宮さまは奥に入ってしまわれた。
どうしたって嘘であろうはずがない。軽い気持ちでお思い申し上げることですらして良いことではない。鼻こそが嘘をついたのだ。誰かが憎いことをしてくれたのだ、全く気に入らない。自分がくしゃみを出しそうな時は、押し我慢している。尚更憎いと思うが、まだこちらに来てから日も浅いので弁解もできなかった。そのまま夜が明けたので局に下がったところすぐに、宮さまの使いの者が浅緑の薄様に艶やかな文を持ってきた。
『いかにして いかにしらまし いつはりを
空に糺の 神なかりせば
と、宮さまの御心はあるようです。』と書かれたいた。
宮さまからの文なのでとても嬉しいのだが、疑われて残念な気持ちが強く心が思い乱れた。昨晩のあの人をどうしても探し当てたいものだ。
『薄さ濃さ それにもよらぬ はなゆえに
憂き身の程を 知るぞわびしき
と、このことだけは弁解申し上げたいです。式の神も自ずから見ていてくれることでしょう。畏れ多いことですが」
歌を返した。
それにしても、あの時何故あのような事が起きたのだろうと、情けなくとても悲しい。