『和歌から引いてやりとりをする伊周、定子の兄妹をこっそりと見て、ときめく清少納言
山里は雪降り積みて道もなし 今日来む人をあはれとは見む 拾遺集 冬 平兼盛』
しばらくすると、前払いの高い掛け声が聞こえてきた。
「殿がいらっしゃいました」
散らかっている物を慌てて片付けて奥の方に引っ込んだが、道隆さまの様子をどうしても見たい。御几帳の綻びのところからこっそり覗く。
大納言伊周さまもいらっしゃった。御直衣、指貫の紫があたり一面の真っ白な雪に映える。宮さまに近づくと、柱のところにお座りになられた。
「昨日今日と物忌みだったのですが、雪が大そう降ったので気になって参上しました」
「道もなしと思っていましたが? 」
宮さまが尋ねると、お笑いになりながらお答えになられる。
「あわれと感じてくれるのでは? と思いついたので」
物語の中に出てくるような情景にいつも憧れていた。こんな素敵なやりとりを間近に見られるなんて、これ以上素晴らしいことなんてない。
宮さまは紅の唐綾ふたつと白い唐綾ひとつがあしらわれている真っ白な御衣に身を包み、それを艶のある長い御髪で彩っている。絵に描かれているのは見たことがあったけれど、現には初めてで夢心地だ。
大納言さまは女房達と話をし冗談も仰られる。返答することを恥ずかしいと少しも思わず言い返したり、作り話など言われた時に抗ったりする女房達の姿を見ると、目も当てられず呆れるほどで、ただもう顔が赤らんでしまう。大納言さまは果物などを御召し上がりになり、宮さまにも勧められていた。