(写真はWikipediaより引用)
993年11月、清少納言が出仕した。それから日も空けず、あっという間に中宮定子の虜になってしまう。
宮に初めて参りたる頃
宮中へ初めて出仕した頃のこと。
慣れない宮中で、たちどころに顔が紅潮するような多くの恥ずかしい思いをし、ふと涙も落ちそうな気がするので、目立たぬように夜になってから宮さまのところへ出向いていた。三尺ほどの御机帳の後ろに隠れるようにひっそりと座っていると、宮さまが絵などを取り出して私に見せてくれようとする。私と言えば、その宮さまの御気持ちにうまく応えられず、ただただ逃げ出したいくらいだった。
「これはこういうことです、あれはああいうことです」と、私に教えてくれているのだが、高杯の御灯火の明かりで宮様の髪の一筋一筋が昼よりも増してはっきりと目に映る。眩いばかりのお美しさにずっと魅とれていたく、目を離したくないのだが、それをじっと我慢して絵の方を見る。とても冷え込む時期なので、袖からほんの少しだけ覗いている宮様の御手が、ほんのりと薄紅梅色に染まっている。なんと艶やかでお美しいのだろう。こういう世界のことを全く知らず、宮仕えに慣れていない私にとっては、このような素敵なお方がこの世にいらっしゃるということ自体ががそもそも信じられない事であり、はっと我に返るまで、宮様のことをずっと見続けてしまった。