『造り物の見事な桜に』
正歴五年二月十日、法興院の尺泉寺(積善寺)の御堂で、関白道隆さまが主催する一切経供養が執り行われることになった。一切経供養とは、釈迦説法一切の経文を新たに書写して奉納供養する儀式の事だ。儀式には、女院詮子さまもおいであそばすはずで、二月一日に宮さまも二条の宮にお入りになられた。夜が更けて眠たくなってきたので後は何もせず眠りについた。
朝早く、日がうららかに差し出ている頃に目が覚め外に出てみると、とても真っ白で真新しく趣向が凝らされた設えになっていた。御簾をはじめとして装飾や調度など、あらゆるものを新調されたようだ。獅子、狛犬など、いつの間に入り込んで座っているのだろう? とても面白い。
庭に降りるための御階の元に、一丈(3m)位の背丈の桜が、とても見事に咲いている。『とても早く咲いたものだ。梅こそが今盛りなのに… 』と思ったが、造った桜なのだ。花の色艶などすべてが咲いている花にも劣らない。どれだけ大変だっただろう。雨など降ればしぼんでしまうのが残念だ。小さな家など多く建っていたところに新しく造ったばかりなので、見どころである木立などはまだない。二条宮を身近に感じられるところが素敵だ。