/活動日誌/閑話/16Day's /活動日誌/日経新聞抄 16Day's 5章の② 2026-03-21 ( 初回配信 2026-03-21 ) facebook tweet LINE はてブ Pocket 10時37分、山梨県河口湖着。 さすがに名を知られた観光地である。駐車場はどこも満杯で、正直なところ、車を停められる気がしなかった。が、入口近くで、まるでこちらの到着を待っていたかのように、一台分の空きがぽっかりと口を開けていた。運は、こうして静かに微笑んでくれることがある。 富士山パノラマロープウェイは、外国人観光客の長い列で、すでに別世界になっていた。素晴らしい眺めが約束されていると聞くが、行列に並ばない主義の我らに、その景色は縁遠い。人の熱気から一歩引き、湖畔に立って、富士を映す水面と空の広がりをしばし味わい、河口湖を後にする。精進湖、本栖湖と抜け、朝霧高原へ向かう途中、道の真ん中に立ち尽くす警察官に制止された。――違反はしていない。していないはずだ。胸の奥がざわりと騒ぐ。停車すると、ほどなく対向車が目の前を横切り、その車だけが側道へと誘導された。こちらを止めた警察官は、拍子抜けするほどの笑顔で、「行っていいですよ」と合図を送ってくる。俺たちじゃなかったのか。こちらも満面の笑みで応えつつ、「違反などしていませんよ」という体を崩さぬまま、半信半疑でそろりと発進する。この一瞬の緊張と安堵。旅には、こうした無駄に思える時間が、なぜか記憶に残る。朝霧公園の入口を探して少し迷い、行き過ぎてUターン。12時2分、道の駅朝霧公園着。建物内の店を軽く一巡し、食堂で昼食をとる。まだ咳が抜けきらず、体が何かを欲しているのがわかる。ビタミン補給とばかりに、売店できらぴ香をひとパック、600円。ひと口かじると、酸味と甘さがちょうどよく、体の内側に静かに沁みていった。食後、公園を散策する。苔むした、大きな溶岩石――しかもぽっかりと穴が空いている。何気なく顔を近づけ、穴を覗き込むと、そこに富士山がいた。なるほど、こう来たか。自然も、人の知恵も、なかなか凝った遊びをするものだと感心し、13時10分、公園を後にする。 13時34分。道の選択はすべてカーナビに委ね、414号線を南下。静岡県に入る。ウエルシアで咳止めとブラックサンダーを購入。必要なものと、ついでの楽しみ。旅とは、だいたいこの二つで出来ている。 13時59分、富士山本宮浅間大社着。快晴。通路を挟んで桜が左右に並び、満開の花が空を押し広げている。ここは、源頼朝が富士の裾野で巻狩りを行った折、武将を率いて参詣し、流鏑馬を奉納した地と伝えられる。主祭神は木花之佐久夜毘売命。火中出産の伝承から、安産や子育ての神として知られ、全国に広がる浅間神社の総本宮だという。一礼して、社の裏手に回る。家族三人連れが社の中を覗き込み、「パワーを感じるね。これ以上先へ行ったら駄目だよ」と話していた。その声を背に進むと、雑木林に入る。ひんやりとした空気の中、ところどころに陽が差し込む。さらに奥へ行くと池があり、親子の鴨が寄り添うように水に浮かんでいた。この日も、予約していたRVパークは見送り、ホテル24(NISHI)IN富士山を取ることにした。夜は、魚介の旨い小料理屋へ。腹を満たし、酒を少し。今日一日の景色が、静かに体の奥へ降りていった。 ロープウェイ 桜 流鏑馬 富士山本宮浅間大社 雑木林 鴨の親子