ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターは、オーストリア・ハンガリー帝国(後のチェコ)生まれの経済学者であり、イノベーションの父と呼んでも良いだろう。
シュンペンターは著書『経済発展の理論』で、イノベーションを「新結合(New Combination)」と定義しており、下記の5つに分類している。
1.The introduction of a new good — that is one with which consumers are not yet familiar — or of a new quality of a good.
プロダクト(製品)のイノベーション
2.The introduction of an improved or better method of production, which need by no means be founded upon a discovery scientifically new, and can also exist in a better way of handling a commodity commercially.
プロセス(生産方式)のイノベーション
3.The opening of a new market that is a market into which the particular branch of manufacture of the country in question has not previously entered, whether or not this market has existed before.
マーケット(市場)のイノベーション
4. The conquest of a new source of supply of raw materials or half-manufactured goods, again irrespective of whether this source already exists or whether it has first to be created.
サプライチェーン(供給網)のイノベーション
5. The carrying out of the better organization of any industry, like the creation of a monopoly position or the breaking up of a monopoly position.
オーガナイゼーション(組織)のイノベーション
クレイトン・クリステンセンも、製品、技術、販売、組織について詳しく言及している。二人とも考え方には共通点がたくさん存在する。
1.市場が求める進歩のペースは、技術によって供給される進歩のペースと異なる場合がある
顧客が現在必要としていないイノベーションについては顧客を頼るべきではない
2.イノベーションのマネジメントには資源配分プロセスが反映される
3.イノベーションの問題には、市場と技術の組み合わせの問題がともなう
破壊的技術は、技術的な挑戦ではなく、マーケティング上の挑戦ととらえる必要がある
4.たいていの組織の能力は、特定の状況にのみ対応できるものである
破壊的技術で生み出された市場は、まったく別の能力を必要とすることが多い
5.破壊的技術に直面した時はコストをかけず、すばやく柔軟に市場と製品に進出することによって、情報を生み出す必要がある。破壊的技術によって成功を求めるには、試行錯誤が必要である。
6.つねに先駆者になる、つねに追随者になるといった一面的な技術戦略をとるのは賢明でない。
少しずつ改良を繰り返し従来技術の性能を高める戦略も、大幅な技術革新を進める戦略も成功の度合いはほぼ同じであることが実証されている。
イギリスの経済学者であるジョン・メイナード・ケインズが当時は最も優秀な経済学者として有名であり、シュンペーターはその陰に隠れて経済学者としてはなかなか陽の目をみなかった。
少しだけ脱線するが、アメリカのホワイトとの世界基軸通貨を巡るブレトンウッズでの争いは有名な出来事である。
採用されたホワイト案(アメリカ案)は、基金方式であり(現在の国際通貨基金)、
ケインズ案(イギリス案)は信用創造機能を備えた世界の中央銀行の役割を果たすものだった。
実際のところ、ケインズ案とホワイト案の戦いではなく、第二次世界大戦でアメリカからの戦争債務の大きかったイギリスと、巨額の外貨を保有して唯一の黒字国だったアメリカとの戦いで、ドルを守ろうとしたアメリカによって自国の優位性を守るための取り決めとなってしまった。まさにアメリカ・ファーストの戦いであった。
ケインズ案が採択されていれば、現在の歪んだ資本主義社会でなかった可能性も考えられ、歴史にタラレバはないけれど、「もしもあの時」という残念な気持ちでいっぱいである。
話は戻るが、新しい結合の方式によりイノベーションは生まれるのだ。
まさに、「つなぐ」ことが「イノベーションの源泉」となる。
短絡的に、「破壊的技術」を追い求める必要はない。
我々のごく身近にあるモノやコトをいかに有機的に結びつけるか、
結びつけたもので何を解決するのかが重要である。
まさにその繰り返しこそが「イノベーション」を生む源泉なのだ。