ニューヨーク原油は、90ドルから105ドルへ一気に駆け上がった。
原油という代物は平時なら60ドルから90ドルの間をうろつく。
ところが世界がひとたび熱病にかかると話は別だ。
安ければ40ドルを割り込み、高ければ120ドルを平然と突き抜ける。
今回の値上がりは、ホルムズ海峡の封鎖解除にはまだ時間がかかる、とトランプが口を滑らせたからだという。
いや、滑らせたのではない。中間選挙を前にして、有権者には本当のことを話しておいたほうが得策だと計算した結果らしい。
いま世界は、エネルギー価格という巨大な黒い重石を首にぶら下げられたまま坂道を降っている。
どこの国も、インフレ率が上がり、金利が上がり、家計も企業も息を切らしている。
その元凶のかなりの部分がエネルギー価格にある。
もしこの戦争が終わればどうなるか。
少なくとも世界平均で見れば、インフレ率も金利も1%程度はあっさり下がるだろう。
だが現実はそう簡単にはいかない。
戦争は始めるより終わらせるほうがはるかに難しい。
そして政治家にとっては、平和より選挙のほうが大切である。
そのトランプは、中間選挙で共和党が勝利した暁には、全国民に1人あたり5000ドル(今朝のドル円換算で77万2200円)を配ると宣言した。
総額は1兆3000億ドル(201兆円)。
国防費にも匹敵する額だ。
金は天から降ってこない。
しかし選挙のたびに、降ってくるような話だけは繰り返される。
こんな景気のいい話が喝采を浴びるたびに、人間という動物の記憶力の短さには感心する。
今日のごちそうに目を奪われ、明日の請求書を忘れる。
古今東西、選挙とはそういう催しなのかもしれない。
だが、ばらまいた金はどこかで回収される。
市場は慈善団体ではないのだ。
結局のところ、人類は石油と紙幣に振り回され続けている。
片方は地中から掘り出され、片方は印刷機から吐き出される。
そして市場は、そのどちらにも容赦なく値札を貼りつけていく。